健全な電子キャッシュ社会
2020年6月30日
健全な電子キャッシュ社会
次世代インターネット
コロナ禍で社会に変化が訪れ、これまでになくデジタルな社会・経済活動が注目されている。これは、次世代ネットを推進するに有利な環境だ。
ブロックチェーン技術を用いた次世代ネット上では、既に新たな経済システムが始まっていて、各国で大きな関心を呼ぶ存在になっている。チェーン上で展開される電子キャッシュまたはデジタルマネーが、トラストレスな(疑う必要のない)決済基盤を提供し、当事者間の直接決済を可能にしている。
決済上の中間手数料がなくなることで、1円の数分の1といった極めて小さな額のやり取りを、自動かつ高頻度でこなすビジネスモデルの発展が見込まれている。例えばIoTなど、産業機器から家電にいたるまで、機器間で極少額の自動決済が必要とされる分野は多岐に渡る。
また、ブロックチェーンがもたらすグローバルな記録台帳システムは、事業者にとっての有益性も高い。決済手数料はもとより、財務にまつわる周辺準備や維持管理コスト、税務上の労力や経理費用等を削減し、さらに安全かつ安価な「記録システム」としてブロックチェーンを利用するなど、ビジネスへの貢献度は高い。
これらは「コロナ下」の一時的な対策などではなく、この先、少なくとも数十年に渡って構築していく新社会の形であり、コロナ禍はそれを後押ししているに過ぎない。
パブリックチェーン
インターネット同様、次世代ネットの基盤となるブロックチェーンもまた、公かつ唯一の存在でなくてはならない。さらに無限の拡張性と、誰も変更することのできないベースプロトコルを備え持つ必要がある。
不便ではあるが、異なるOSはなんとか使い分けできても、インターネットプロトコルが度々変更を受けたり、複数のベースプロトコルが存在した場合、それらは利便性に欠けるだけでなく、問題も大きい。ISP契約などをプロトコルごとに行い、それぞれのコンテンツには互換性がない。不便さから、いずれそれらは一つに収斂するか、逆に航空会社のようにアライアンスを強化し、ユーザーに不便を強いることになる。
ただ、グローバル性がインターネットの強みであり、それは次世代ネットも同じである。要は、現在乱立するブロックチェーンのうち、一つだけが「パブリックチェーン」に選ばれ、他はみなイントラネットのようにプライベート利用に留まる。
ブロックチェーンや他の分散型記録システム等の開発者が発っしているメッセージからは程遠く、それらのチェーンの拡張性は証明されず、プロトコルの固定にすらいたっていない。結局、用意しているコインのほとんどが、使途は投機、日々のトレーディング対象となっている。
ミセスワタナベの国
次世代ネット、グローバル記録台帳システムを整備するビットコイン(現BSV)に対する誤認識がある中、これまで世界中で「暗号業界」が新興し、投機はもとより、マネーロンダリング、犯罪利用、違法な資金集め等に暗号資産が使われてきた。
日本国内に目を向けると、クリプトーエクスチェンジは一大投機事業となっている感がある。競馬、競輪、競艇、オートレース、パチンコはもとより、株式や外国為替による投機も盛んな社会である。過去には、自宅で日々FX投機に励む日本の主婦・夫らが、世界の金融市場に影響を与えるほどの取引量を誇ったことから、ウォールストリートが「ミセスワタナベ」と名付け、世界の金融界で話題を呼んだ。そして現在、クリプトーがその仲間入りを果たしているようである。
クリプトーエクスチェンジは、顧客を投機の場へと誘導して、できる限り多くの取引をさせ、そこで得る手数料収入の最大化を図ることがその主たる目的である。顧客が売買のために、世界中から持ち込む暗号資産はノーチェックであり、それらが人身売買や児童ポルノなどの闇取引に使用されていないかなど、何ら問うことはないのが現実だ。それは、現金紙幣とは対照的に、ブロックチェーン、分散型記録システム等においては、そうした検証を行うことが可能であるにもかかわらずである。
さらに、アノニマス性のある暗号資産や、違法な証券性が問われ、現時点で米国の裁判所等で係争中の暗号資産まで取引されている。また、発明者の発表論文と異なることが明確でありながらも、その名称を使用したコインの取引の場を顧客に提供している。
こうした事態に対し、ビットコイン発明者のサトシ・ナカモトは、これまで何年にも渡って警告を発してきている。まるで「証券法は無視して構わない」、「著作権など存在しない」といった暗号界の振舞いは、いずれ巨額の責任問題へと発展しよう。
暗号界と距離を置く
我が国のクリプトーエクスチェンジライセンスは、その目的を「1.マネーロンダリング対策、2.利用者保護」としている。にもかかわらず、上のような暗号資産の扱いを許している。反面、発足当初よりアノニマス性を排除し、使用上の高い透明性とともに、各国の法準拠を目指してきたビットコイン(現BSV)を遠ざけ続けている。
サトシ・ナカモト著、論文「ビットコイン」の中で、十数回に渡って「正直」という単語が登場する。つまり、「正直なマネー」は、高い透明性とともに、犯罪利用や不正使用を躊躇させるマネーの形を探求していることが伺える。ビットコインは当初より、公の場で健全な取引に「使う」ことを目的としていて、値上がりを待ってただ持ち続けるとか、日々の投機トレーディングを目指したものでないことは、同論文を読めば容易に理解できるはずである。
我が国のクリプトーエクスチェンジを取り巻く環境を、道路インフラ整備に置き換えれば、危険で無意味な「公道レーサー」にライセンスを用意しているようなものである。道路整備事業は必要だし、そこを走る自動車の生産も重要だ。それらの事業に対する登録制度があってもっともだ。
しかし、一般市民にとって、危険極まりない公道レーサーなど存在して欲しくない。いくら収益が上がるからといって、あえてそのようなライセンスを準備してまで危険な産業を育てることに社会的正義はない。次世代ネットから見る「暗号界」とはそんなものだ。犯罪利用、違法ファンディング、著作権の侵害等、様々な疑義を生じさせている。
トランザクションプロセッサー
チェーンキーパーまたはトランザクションプロセッサーは、次世代ネットに備わるトラストレスな決済システム、グローバルな記録システムの基盤を支えている。ブロックチェーンに膨大な計算力を提供し、トランザクションを検証する。
また、既に始まっているように、金融、医療、気象、スポーツ等、あらゆる分野から上がってくる更新データを扱う事業体の依頼等で、それらのデータをチェーン上に記録・保存するためのトランザクションを行う。
こうした作業の対価に、トランザクションプロセッサーはブロックチェーンからビットコインを取得し、それを現金化して必要なコストを賄い、残りを収益とする。将来的に、パブリックチェーンのトランザクションプロセッサーは大きな収益を上げる企業へと成長することが見込まれている。
こうしたことを事業者が健全に行うことのできる環境整備に、規制担当者は暗号界との明確な線引きをする必要がある。これらを同一視することなく、異なるカテゴリーで事業者登録するなどして、当局は次世代ネット促進に貢献すべきであるが、そうなっていない背景には、ビットコインはもとより、ブロックチェーンに対する理解が根本的に欠けていることが挙げられる。
それは各国政府に限らず、世界最大級のグローバルIT企業らが持つ専門チームでさえ、ブロックチェーンに対する様々な誤解がある。その結果、各国で有効な法整備が行われず、グローバルIT企業もブロックチェーン技術を用いたソリューションを未だ提供できずにいる。
他の先進国同様、日本国憲法は「経済活動の自由」を保障している。曖昧な法規制が、正当な経済活動の自由を阻害しているとすれば、それは憲法の抵触について論議を呼ぶ。さらに、その対象をよく理解していないまま規制を敷いているのであれば、事態はより深刻だ。
こうした中、残念ながら、日本国内における次世代ネットへの関心は未だ低い。投機対象としての暗号資産の扱いばかりに気を取られ、次世代ネット、ブロックチェーン技術が人類にもたらす恩恵、その本質を見失ってはいないか。このままでは、インターネット導入時同様、日本はまた、他国に遅れを取ることになりかねない。
技術大国
結局、技術大国と言い続けた日本は、インターネット時代に入り、米韓テック企業にリードを許し、それは今も続いている。そしてそのことは、コロナ禍による社会的、経済的構造変化が求められる中、より顕著に表れた。
過去には「技術立国」としていたものが、いつしか技術大国との表現に変わった。しかしそれは、新興国との比較であって、他の先進国と比較では、日本は多くのことで後れを取ってきた。インターネットに限らず、携帯電話やPC等、振り返れば社会を変えた新技術の普及はいつも後発だった。
我が家での導入は遅れたが、当時80年代のアメリカでは、既に多くの家庭がPCを所有していた。インターネット以前は、日本の友人らは「家でコンピューター?何に使う?」と言っていたのを思い出す。
物質面、技術面での遅れはお金で取り戻すことができるが、運営面が重視される政府や社会のデジタル化にいたっては、恐らくそう容易には遅れを取り戻すことのできないリードを他国に許してしまっている。冒頭の新しい社会の形、次世代ネット、トラストレスな決済システム、グローバル記録システムの普及においてもまた、インターネット導入時や電子政府同様、既に後追いとなりそうな気配が漂う。
同じ過ちを踏襲しないことを願いつつ、今後とも、ビットコイン、現BSVにまつわる誤解を解き、また暗号界と距離を置き、日本の健全な電子キャッシュ社会、次世代アプリ開発の発展に努めたい。